遺産分割協議書を自分で作成するには
行政書士が解説

2024年7月23日更新

遺産分割協議書は、法務局や金融機関に提出し、名義変更などの際に使用するとても重要な文書です。

こちらのページでは遺産分割協議書を自分で作成する方法とポイント、メリットデメリットを、文書作成の専門家である行政書士が分かりやすく解説いたします。

遺産分割協議書とは

 

遺産分割協議書とは,

遺産を分ける話し合い(遺産分割協議)の合意内容を記した書面のことです。

相続が発生したときに、被相続人(お亡くなりになった方)が遺言書を用意していた場合は、基本的に遺言書の内容に沿って遺産を分けることになります。しかしもし、遺言書がなかった場合には、遺産は相続人全員が共有している状態となるため、相続人が話し合いでどのように遺産を分けるか決めることになるのです。

この話し合いを遺産分割協議といい、その合意内容を記した書面を遺産分割協議書と言います。

相続手続きには遺産分割協議書が必要です。作成した遺産分割協議書は資産を預かってる銀行や証券会社、相続登記を行う法務局、自動車の名義を登録する陸運局、また相続税を申告する税務署などに原本を提出し、口座の解約や名義の変更を行います。

遺産分割協議書は自分で作成できる?

遺産分割協議書を作成できる人は?

 

遺産分割協議書は、作成できる人や作成方法が法律などで決められているわけではありません。

相続人の方が作成することももちろん可能です。以下に手順、ポイントなどをご説明します。

遺産分割協議書の作成手順

1.相続人の確認

まずは法定相続人を確認します。ご当事者は誰が相続人であるか勿論お分かりなわけですが、想定外の相続人がいる可能性もゼロではありませんので、被相続人(お亡くなりになった方)の出生から死亡までの戸籍等を取得し、相続人の裏付けを取ります。

戸籍等はいずれにしても、遺産分割協議書の添付書類として各窓口に提出しますので、必ず取得してください。

 

なお法定相続人は下記の通りです。

常 に:配偶者

第1位:子 

第2位:親

第3位:兄弟姉妹 

※ 子や兄弟姉妹が先に亡くなっている場合は、その子(被相続人からみた孫や甥・姪)が相続人となります(代襲相続

2.財産の調査

次に相続財産を調査します。預貯金や不動産など財産の種類、残高や価格を確認します。相続財産は目録を作成し、一覧できるようにするといいと思います。

 

3.相続人全員で協議する

相続人全員で、誰がどの財産を相続するか、どのような方法で分割するか協議を行います。この協議には、相続人全員が参加することが必要です。遺産を受け取る人達だけで決めてしまうことはできませんのでご注意ください。

 

4.遺産分割協議書の作成

話合いが成立したら、いよいよ合意内容を文書にします。これが遺産分割協議書です。

以下にポイントをご紹介します。

 

遺産分割協議書作成のポイント

 

●遺産分割協議書には、決まった様式はありません。用紙は便箋、レポート用紙、コピー用紙など、お手元にあるものを使って大丈夫です。縦書きでも横書きでも構いません。

●手書きでもパソコン書きでも作成することができます。

●手書きの場合は、消せないペンで書いてください。書き間違えの訂正には訂正箇所に全員の実印で訂正印を押してください。

●作成年月日を入れてください。

●相続人全員が署名をし、実印で捺印してください。遺産を受け取る人だけでなく、遺産を受け取らない人の署名捺印も必要となりますのでご注意ください。

こちらに一般的なひな形をご紹介いたします。参考になさってください。

 

被相続人:相続太郎(令和〇年〇月〇日死亡)

最後の住所    神奈川県横浜市中区〇〇町〇丁目〇番地〇

最後の本籍      神奈川県横浜市中区〇〇町〇丁目〇番地〇

の遺産について、同人の相続人全員において分割協議を行った結果、各相続人が次のとおり遺産を分割し、相続することを決定した。

 

 

1.相続人:相続花子が取得する遺産及び負担する費用

 

(1)土 地   ※1

  所  在  横浜市中区〇〇町〇丁目

 地  番  〇番〇 

 地  目  宅 地

 地  積  〇〇.〇〇㎡

 

(2)建 物 

   所  在  横浜市中区〇〇町〇丁目 〇番地〇

   家屋番号  〇番〇

   種  類  居 宅

   構  造  〇造〇〇葺〇階建

   床 面 積    〇〇.〇〇㎡

 

(3)預貯金債権、信託受益権、出資金、株式・公社債等の有価証券、共済・保険契約に関する権利、その他の債権及びその他の資産など、被相続人の有する全ての金融資産の〇分の〇

 

(4)被相続人の未払債務及び葬儀費用並びに遺産整理に伴う一切の費用

 

(5)本協議書に記載なき遺産及び債務費用等

 

 

2.相続人:相続一郎が取得する遺産

 

(1)預貯金債権、信託受益権、出資金、株式・公社債等の有価証券、共済・保険契約に関する権利、その他の債権及びその他の資産など、被相続人の有する全ての金融資産の〇分の〇 ※2

 

 

 

以上のとおり、相続人全員により遺産分割協議が成立したので、これを証するため本書○通を作成し、各自1通を保有する。

 

 

                       令和  年  月  日

 

 相続人 住 所  横浜市中区〇〇町〇丁目〇番地〇         

    氏 名         相続花子 実印             

 

 

相続人 住 所  横浜市泉区〇〇町〇丁目〇番地〇         

    氏 名  相続一郎 実印               

 

 

 

遺産分割協議書のひな形活用法

 

遺産分割協議書を作成する際は、ひな形を活用すると間違いがなく便利です。

ひな形を活用する際は、パターン別に用意されているひな形を使い、定型文の箇所はそのままで、個人や財産の具体的な情報のみ入れ替えるのが間違いがなくおすすめです。

こちらのページではさまざまなひな形をご用意しております。ダウンロードもできますので是非ご活用ください。

作成に必要な証明書類

 

*印鑑証明書

遺産分割協議書には相続人全員が署名をし、実印で捺印します。

提出の際は、実印が真正であることを証明するために、印鑑証明書を添付します。印鑑証明書は、取得から3か月以内のものを添付します。

*戸籍

遺産相続の手続は、相続人全員が合意のもと行う必要があります。

誰が相続人であるかは、ご当事者には分かります。しかし、名義変更の手続きをする法務局や金融機関の担当者には分かりません。そこで、戸籍を添付して、自分達が相続人であることを客観的に示す必要があります。

戸籍は、被相続人の出生から死亡までの全部の戸籍※が必要です。

※被相続人がご高齢の場合は、昭和と平成に2回、戸籍の改製を経ておりますので、出生と1度の婚姻だけの経緯でも、最低4通の戸籍が必要となります。

また相続人全員の現在の戸籍被相続人の死亡後に取得したもの)も必要です。

なお現在の戸籍のみでは被相続人とのつながりを明らかにできない場合は、被相続人とのつながりがわかる範囲の戸籍も取得が必要となります。

 

2024年3月より戸籍の広域交付制度が始まり、戸籍証明書・除籍証明書を最寄りの役場窓口で一括請求できるようになりました。

直系の戸籍であれば、集めるのは大分楽になったと思います。

戸籍の広域交付制度を利用できる人

・ 本人

・ 配偶者

・父母、祖父母など(直系尊属)

・子、孫など(直系卑属)

※本人の兄弟姉妹は利用できません

※郵送や代理人による請求はできません

*住民票

遺産に不動産が含まれる場合は、被相続人の住民票の除票、不動産を相続する相続人の住民票(本籍地入り)も必要です。

 

作成の注意点

 

遺産分割協議書を作成する際には、以下の点にご注意ください。

1.相続人全員が合意すること

遺産分割協議書は、相続人全員が合意することが必要です。一部の相続人だけで協議書を作成しても、手続きができません

2.相続財産の正確な把握

事前準備として、相続財産を正確に把握することが重要です。後から財産がみつかると、その財産のために改めて協議をしなくてはならず二度手間となってしまいます。

また相続人間の争いを避けるためにも、相続財産は正確に把握し、相続人全員で公正に情報を共有することが大切です。

3.上手にひな形を使う

遺産分割協議書のひな形を使うと簡単で確実に作成できます。ひな形は間違いを避けるため、なるべく手を入れないで済むようなパターン別に用意されているものを使うのがおすすめです。

4.期限に気を付ける

相続税が課税される場合は、相続開始から10か月以内に相続税の申告をしなくてはならず、それまでに遺産分割協議を終えている必要があります。

また令和6年4月からは相続登記も義務化されておりますので、相続財産に不動産が含まれる場合も期限に注意が必要です。

 

以上が遺産分割協議書作成のポイントです。遺産分割協議書は遺産の分け方を決めるとても大切な書面なので、十分注意して作成ください。

 

遺産分割協議書を自分で作成するメリットとデメリット

 

遺産分割協議書を自分で作成することによるメリットは大きいですが、デメリットもいろいろとあります。以下にご紹介しますので、それぞれのご事情に応じてご判断ください。

遺産分割協議書 提出先の書類

自分で遺産分割協議書を作成するメリット

*作成費用がかからない

専門家に作成してもらうと、それなりに費用がかかります。しかし、ご当事者が作成すれば、費用はかかりません。

*すぐに取り掛かれる

専門家に依頼する場合は、専門家を探して相談するところから始まり、完成までにはある程度時間がかかります。しかし、ご当事者が作成すれば、すぐに取り掛かることも可能です。

*自分たちの思いを反映させることができる

自分たちで作成することで、ご当事者の思いを反映させることができますから、満足度の高い遺産分割協議書を作成することができると思われます

 

自分で遺産分割協議書を作成するデメリット

*受け付けてもらえない場合がある

せっかく作成した遺産分割協議書に万が一不備があると、預金口座の解約や不動産の名義変更に応じてもらえないことがあります。その場合は作成し直さなくてはならず、時間も手間もかかってしまいます。

*特定の相続人に不利になる場合がある

相続人の間で相続の知識に違いがあると、特定の相続人に不利な内容の遺産分割協議書を作成されてしまう可能性があります。

*トラブルになる可能性がある

当事者のみで遺産分割協議を行う場合は、信頼関係を大切に、慎重に対応することが大切です。遺産分割はとてもデリケートです。ちょっとした行き違いからトラブルになってしまい、こじれると家庭裁判所の調停で遺産を分けることになりかねません。

*手間がかかる

ご当事者のみで遺産分割協議書作成する場合は、正しい書き方を調べたり、相続人全員の押印を集めたりなど、手間がかかります。

*不公平感

また特定の相続人に協議書の作成を任せると、負担の重さから不公平感が生じ、そこからトラブルになってしまう場合もあります。

遺産分割協議書作成を専門家に相談する場合は

 

以上ご覧いただいたように、遺産分割協議書を自分で作成することによるメリットは大きいですがデメリットもいろいろとあります。

相続人の皆さんがお忙しかったり、相続関係が複雑な場合などは、専門家に相談するのがおすすめです。遺産分割協議書の作成を専門家に依頼する際は、以下の点にご注意ください。

遺産分割協議書の専門家

*安心して話せる専門家を選ぶ

協議書作成の際は、内輪の実情など、話にくい内容を伝えなくてはならない場合も少なくありません。本当のことを安心して話すことができる、信頼できる専門家を選ぶことが大切です。

*あいまいにしない

専門家は皆さんの味方です。最善の協議書を作成するためにも、あいまいにしたり、隠し事をせずに事実を伝えることが大切です。

*作成費用を確認する

専門家に依頼する場合は費用がかかります。難しい部分のみ依頼し、ご当事者ができる部分は自分達で対応するなど、費用対効果を考えて依頼すると良いと思います。

まとめ

 

以上ご覧いただいたように、遺産分割協議書を自分で作成することは充分可能であり、メリットも大きいです。

しかし相続手続きは一生の間に何度も経験することではなく、一から調べて遺産分割協議書を作成する負担は小さいものではありません。

また相続はとてもデリケートです。ちょっとしたボタンの掛け違いから、大切な親族との関係がこじれてしまうのはとても残念なことです。

もし少しでもご心配がある場合は、まよわず専門家に相談なさることをおすすめいたします。

 

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